3月26日 石巻市田代島 女性建築士の熱意みのる 「臣屋阿部家住宅」登録有形文化財に

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石巻市中心部から船で40分、田代島に渡った。周囲11キロメートル、およそ80人が暮らす小さな島だ。沿岸漁業が盛んだったが、近年は住民より多い推定で100匹のネコが住む「ネコの島」として知られる。

島の南東部、仁斗田(にとだ)地区の高台にある網元の住まい、「臣屋阿部家住宅(しんやあべけ)」がこのほど国の登録有形文化財に登録された。臣屋は屋号、写真は広さ178平方メートル・平屋建ての母屋だ。建物の中心部分は明治14年に建てられ築138年。その後、昭和に入り玄関など一部は何度か増改築された。玄関脇の丸窓がレトロな昭和の空気を伝える。

登録有形文化財は〇築50年以上で、〇歴史的景観に寄与してきたもの。〇再現が難しい、といった要件が認められ、保存が必要とされた建物だ。宮城県内の登録有形文化財はこれで171件となった。

母屋には仏壇と神棚を備えた15畳の広間「おかみ」があり、出漁前に乗組員全員で食事をしたり、大漁の際はお祝いの席として使われていた。伝統的な工法で建てられたのに加え、島の漁業の歴史を伝えることなどが認められた。
今回は母屋の隣に昭和29年に増築された、2階建ての隠居棟も合わせて登録された。のべ床面積は60平方メートル。海を望む出窓が設えられ、明治期の母屋とは違った時代が下った雰囲気を伝える。
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所有者は島に住んでいないので、建物の内部は見学できなかったが、きじとらと黒白の2匹のネコが管理人然として私を迎えてくれた。屋敷の裏には大きなタブの木が常緑の梢を拡げていた。玄関前の庭は雄勝石のスレートが敷き詰められた凝った造りだ。

実はこの屋敷は解体の瀬戸際にあった。家主は島を出て、石巻の市街地で漁業会社を経営している。震災後の2013年所有者はこの先は住む可能性がないと解体の方針だった。このことを知ったのが家主の従妹で東松島市で設計事務所を営なむ遠藤陽子さん。同じ仁斗田地区に実家があった。

登録に先立つ今月16日、仙台市で「古民家と島の再生」を話し合うワークショップが開かれた。
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写真上:「古民家と島の再生を考える」(3月16日)。下;右側が遠藤陽子さん。
遠藤さんは屋敷の価値を家主に説明する一方、女性建築士の仲間に呼びかけて「お掃除ボランテイア活動」を始めた。仲間数人で大工道具などをかかえて島に渡り、震災の揺れで破れた障子を貼り直したり、雨漏れの箇所の修理をした。
ボランテイア活動は4年間でのべ22回、147人が参加した。住まいの佇まいを取り戻すとともに、家主も保存に同意し、登録有形文化財の申請にこぎつけた。
島にゆかりのある女性建築士の熱意が貴重な建物の保存を実現した。

建物の変更・改修が規制される重要文化財などと違って、登録有形文化財は改修・修理は届け出でできる。固定資産税の減免の他、修理費用補助の制度もある。
阿部家住宅の保存にかかわるメンバーは、この先建物のいたんだ部分に手を入れ部分的に修理することも検討している。
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田代島のネコは人懐っこい。陽だまりで寝そべっていて近づいても逃げない。なでてやるとゴロンと仰向けになってお腹をなでてとせがむネコもいる。島の人によると、住民がえさをやっているので100匹のネコは「屋外で暮らす飼いネコ」。野良ネコは1匹もいないという。
ネコに会いにくる観光客も増えた。この日もウイークデーだが、20人近くが島に降り立ったが、観光客を迎える施設は決して十分でない。

勿論、田代島の魅力はネコだけでない。歴史のある獅子舞のほか、タブの木や、モチの木が生い茂り、水のきれいな島の自然は廃プラスチックなど環境問題を考える場となりうる。

女性建築士の熱意で保存が決まった「臣屋阿部家住宅」が、島の文化や歴史を伝える場として生まれ変わる日が待たれる。(了)

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